カンテレの仕組み

カンテレの仕組み-特徴


カンテレの魅力といえば、まずはなんといっても音。
スチール弦が放つ金属質な音は、決して耳に障ることはなく、空気を浄化するかのようなクリアな印象を与えます。『カレヴァラ』の中でヴァイナモイネンが奏でるとあらゆる生物が集まってきたというカンテレ。繊細で遠くから響いてくるかのような慎ましやかなその音色は、郷愁にも似たような情感を胸に起こしてくれます。


残響

開放弦楽器であるカンテレは弦の振幅が大きく、豊かな響きがいつまでも続きます。残響が完全に消えるまでじっと耳を澄ませる時間は、ある種の贅沢ともいえるのではないでしょうか。


消音(ダンピング/ミュート)機能

大型カンテレには、響きを消すための消音板(ミュート板・ダンピングボード)がついています。楽器の上部につけられた板に、厚みをつけたフエルトを貼り、板を腕や手で押すことにより演奏中でも気軽に消音を行うことができます。 ツィター系の楽器類でこの消音機能をつけたものは珍しく、類似楽器の発展過程と大きく異なる点の一つです。


多様性

「About Kantele-カンテレの歴史」でご紹介したとおり、5弦から始まり発展の過程にあわせカンテレの弦数はどんどん増えていきました。
しかし、大型化されていったからといって小型のカンテレが衰退していったわけではありません。
ルノラウルを語り継ぐ家系では、5弦カンテレは欠かせない伴奏楽器でしたし、気軽に製作でき、気軽に楽しめる小型カンテレは各地で独自の演奏スタイルとあわせて継承されてきました。
また、大型カンテレも弾く曲のジャンルによって演奏方法は様々です。

このような弦数や楽器の形態、弾く曲のジャンルや演奏スタイル、あらゆる点で多様性のある楽器であること。
これがカンテレの何よりの特徴と言えるのです。



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カンテレの仕組み-楽器の種類


カンテレはその大きさ・弦数から小型カンテレ大型カンテレとに分類されます。


小型カンテレ(Pienkantele)

一般的に5~19弦のカンテレを指します。

消音板はついておらず、片手で抱えられるほどの大きさで、膝の上か机の上に置いて演奏されます。最近では肩から下げられるようにストラップのついたショルダータイプの楽器も増えています。


小型カンテレは、伝統的な形状を維持した”トラディッショナル”型と、スタイリッシュなデザインの”モダン”型に分類されます。
またペルホンヨキラークソ地域では、独自の形状と奏法が維持されています。

楽器の種類 - 小型カンテレ


大型カンテレ(Isokantele)

一般的に20弦以上あるカンテレを指します。

残響を消すための消音板が取り付けられており、安定感を保つために机の上で置いて演奏されます。

楽器の種類 - 大型カンテレ


種類別音域表

各種類ごとの一般的な音域です。(クリックすると拡大します)
近年ではメーカーによっても音域は異なりますので、あくまでも参考としてご覧ください。


カンテレの種類別音域表


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カンテレの仕組み-パーツ


5弦カンテレ、コンサートカンテレを例に、楽器各部位の名称をご紹介します。


5弦カンテレ

5弦カンテレ-パーツ名称


コンサートカンテレ

コンサートカンテレ-パーツ名称



[kieli]
弦の数は伝統的な5弦~40弦と実にさまざま。現在ではスチール弦が一般的だが、その昔は馬の尻尾の毛やガット弦が使われていた。大型カンテレの低音弦はピアノ線にニッケルまたはステンレス弦を巻き付けた巻弦を使用している。
チューニングペグ(糸巻き)
[viritystappi]
弦を楽器本体に固定し、張力を保つ部位。ペグを締めることによって調弦(チューニング)を行う。
ポンシ
[ponsi]
小型カンテレのチューニングペグと対する側の付け根にある凸出した接合板の部分。弦を留める金属串を楽器本体に固定する。
演奏中にはこの上に腕を軽く添えることも多い。
半音階レバー
[sävelvaihtajan vipu]
「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」7本のレバーがあり、このレバーを操作することによって半音を変更する。真ん中が中立、下げるとフラット、上げるとシャープ音になる。このレバーがついている大型カンテレを「コンサートカンテレ」、「メカニックカンテレ」と呼ぶ。
サウンドホール
[ääniaukio]
楽器本体の表面あるいは側面に開けられた穴のこと。弦から楽器本体に伝わった音を外部に向かって放出する役割をもつ。
消音(ミュート)板
[sammutuslauta]
裏側に厚みのある布を張った板部。弦の振動を止めることによって、残響を消す役割をもつ。
オクターブマーク
[oktaavimerkki]
演奏中の目印としてつけられたマーク。赤色が「ド」音の弦、黒色が「ソ」音の弦を表す。
ハーモニクスマーク
[huiluäänimerkki]
弦のちょうど真ん中、1/4を示すマーク。マーク部を一瞬の間軽く触れながら弾くことにより、1オクターブ(あるいは倍音)上の音を出すことが出来る。


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カンテレの仕組み-弦の仕組み


素材

現在、カンテレの弦はスチール(鉄)弦が一般的です。金属弦が使用される以前は、馬の毛やガット弦が使用されていました。また、鋼線を用いたカンテレもあり、特徴的な音から他のカンテレと区別して”ヴァスキカンテレ(vaskikantele;鋼、あるいは真鍮のカンテレ)と呼ぶこともあります。


弦の長さ

弦はボディ左右の2点で支えられ、張られています。
振動する弦の長さが短くなると音は高くなり、長くなると音は低くなります。そのため、音が高くなるにつれて弦は短くなっていくのです。


弦の太さ

音の高さに応じて、異なる太さの弦が使用されています。
小型カンテレや大型カンテレの中間~高音部はプレーン弦(1本の鉄弦そのままの裸線)が、低音部には巻線弦が使用されます。
どの音にどの太さの弦を用いるかは楽器の種類やメーカー、職人によって異なり、楽器の音の響きの違いにも関わってきます。
通常、カンテレを購入するとそれぞれの弦のサイズを記載した紙(保証書と一緒になっている場合が多い)と、予備の弦が同梱されています。


チューニング(調弦)

音の高さは弦の張力により決まり、弦をしめたり、ゆるめたりすることで調性します。張力を強めると音が高くなり、ゆるめると音は下がります。チューニングには付属のチューニングハンマーを用い、弦が巻かれたチューニングペグを回転させることで、弦の張りを調整します。

カンテレの仕組み-チューニング(調弦)

カンテレは他の弦楽器と同じく、温度や湿度の影響を受けて常に伸び縮していますので、演奏前には必ずチューニング(調弦)が必要です。弦がそれぞれ独立していますので、弦の数だけチューニングが必要になります。30本以上の弦を有する大型カンテレの場合は、それだけ時間もかかりますので、チューニングの時間も考慮して演奏に臨みましょう。


チューニングをする際は、全ての弦を開放の状態にしておきます。コンサートカンテレの場合は、クロマティックレバーを全てベースポジションにします。小型~コティカンテレで単独のレバーをつけている場合も、レバーを解除しておきましょう。

ピアノなどから音をとっても良いですが、チューナーがあると便利です。
管楽器用のチューナーは楽器店で購入できます。
1音1音、チューナーで高さを確認しながら調弦していきます。専用のチューニングハンマーを用いて、音が高すぎる場合はペグを緩め、逆に低すぎる場合はペグを締めて高さを調整します。高さは440~442hzに合わせるのが一般的ですが、独奏の場合は、その楽器の弦が最も響く高さを探してみるのも良いでしょう。

チューニングハンマーは楽器を購入した際に付属品として同梱されているものを用いますが、万が一紛失・破損した場合は、楽器製作者・メーカーに問合せましょう。


チューニングペグが木製の場合は、それ自体を楽器の底面側より回すことで弦の張りを調整することができます。木製ペグのカンテレは音の高さが変化しやすいため、細目にチューニングすることをおすすめします。


弦はカンテレの音、そのもの。
弦を清潔な状態に保ち、楽器の良い響きを維持するためにも、弦のお手入れは定期的に行いましょう。


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カンテレの仕組み-レバーの仕組み


カンテレには1本の弦に個別にとりつける単独レバーと、各調音のすべての弦を一斉に変化させるのコンサートカンテレのクロマティックレバーとの2種類があります。


単独レバー

カンテレの仕組み-レバーの仕組み-単独レバー弦を巻きつけるペグ横に設置されたレバーを上げる/下げることにより、個々の弦の音程を半音上げる/下げることが可能ですが、その張力調整は一定方向のみに作用されます。


5弦カンテレの場合は3番の弦にレバーをつけることで、メジャー/マイナーのチェンジをすぐに行うことができるので便利になります。弦数の多い小型カンテレやコティカンテレの場合は、最も良く弾かれる音域の弦に(例えばB♭、F#、G#など)主要な調に対応したレバーをつけることが一般的です。


この単独レバーを設置するには楽器購入時にオプションで依頼することになり、レバーの本数に応じ料金も上がります。あると便利なレバーですが、必要な音を考慮した上で設置を検討すると良いでしょう。


クロマティックレバー

カンテレの仕組み-レバーの仕組み-クロマティックレバーコンサートカンテレは、レバーを開放した状態でハ長調の全音階になります。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シの各音に対して一つずつレバーが割り当てられ、それらのレバーを音階に合わせて設定することで全ての調のスケール(音階)を演奏することが可能です。この仕組みはグランドハープの構造からヒントを得て、1920年代Paul Salminen(パウリ・サルミネン)によって開発されました。
クロマティックレバーは真ん中が正位置(ベースポジション)となり、内側に倒すと半音下がり(♭、フラット)、外側に倒すと半音上がります(#、シャープ)。


各レバーはその音名の弦すべてに作用するため、例えば同時にソ(G)とそのオクターブ上のソ#(G#)またはソ♭(G♭)を弾くことは出来ません。ただし、ラ(A)のレバーを内側に倒し、ラ♭(A♭)をソ#(G#)と代用したり、ファのレバーを外側に倒したファ#(F#)をソ♭(G♭)として代用するなど、異名同音の形で演奏することは可能です。
この構造上、極端な半音階のフレーズは演奏することが出来ません。また、演奏もレバー操作も、どちらも手を使って行うため急速な音の変化への対応も困難であり、どうしてもカンテレに不向きな楽曲(あるいは演奏が不可能と思われる曲)もあります。


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>>参考文献

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